チャットGPTで意思決定の質を向上させる方法
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サマリー:チャットGPTの導入によって、将来、経営判断の多くは自動化される可能性があるが、それまでの間は人間が最終判断を下すべきである。しかし、現在でもチャットGPTは、人間が意思決定を行うための3つの段階(目標の定... もっと見る義、選択肢の考案、選択肢の検討)をサポートすることが可能だ。本稿では、経営者が意思決定を行う際、どのようにチャットGPTを使用すべきかを解説する。 閉じる

チャットGPTは意思決定に有用か

 チャットGPTは、経営幹部がよりよい意思決定を行うための役に立つのだろうか。

 何カ月にもわたり、誰もが話題にしているこの大規模言語モデル(LLM)は、問いに対して饒舌に答えてくれる。「はい、私は十分な情報に基づく意思決定を行うために役立つ情報、事実、分析、視点を提供することで、あなたの経営判断をサポートできます」

 チャットGPTは自分の能力の限界についても即座に補足する。「ただし、私の助言や推奨は、データと情報のアルゴリズム的解析に基づいているという点に留意することが重要です。あなたは人間として、あなた自身の経験、知識、状況判断に基づいて最終的な決定を行う必要が依然としてあります」

 その通りだろう。だが、このように謙虚ではあるものの──あるいは謙虚だからこそ──チャットGPTのような大規模言語モデルは、経営者と企業にとって強力な意思決定ツールとなりうる。期待できるのは、答えを与えてくれることではない。重要な経営判断において、意思決定のプロセスを現在よりも体系的にするために役立つのだ。

 十分な情報に基づく意思決定は、3つの段階がある。第1に、目標と背景状況を定義しなくてはならない。具体的に何に関する決定なのか。どのような目標、価値観、選好に基づいて決めるのか。決定する問題を定義し、意思決定の枠組みを設定する。

 第2のステップは、選択肢の考案だ。意思決定においてどのような選択肢があるのかを考える。ここでの目的は、明白な選択肢のみに焦点を当てるという非常にありがちなものではなく、さまざまな選択肢を生み出すことだ。

 意思決定の枠組みに基づいて十分な数の選択肢を打ち出したうえで初めて、第3のステップでそれらを検討し、十分な情報に基づく意思決定を行うことができる。

 チャットGPTは、うまく使えば現在の学習状態でもすでに、ビジネスの意思決定における3つの段階すべてで有益なサービスを提供することができる。実際、十分な情報に基づく意思決定システムの3段階のすべてにおいて、チャットGPTと対話を始めることが可能だ。

 意思決定の選択肢を検討している時には、たとえば次のような質問ができる。機械工学産業に属する大手および中堅企業の社長は、新しい市場への進出を決める際に、どのような間違いを犯すのか。進出を成功させる要件は何か。

 チャットGPTはこれを受け、当該ケースの選択肢を完全に比較検討できるテンプレートを提供するわけではない。しかし、自身のバイアスを明らかにして、先入観を疑ってみるよう私たちを後押しすることはできる。

 チャットGPTは、賢く使えば、あたかも認知バイアスという概念を提唱した心理学者のダニエル・カーネマンとエイモス・トベルスキーの研究を精読したかのような、バイアス除去ツールになりうる。十分な情報に基づいて選択肢を検討するにはどうすればよいかについて、じっくり考えるための材料を提供してくれるのだ。

 現在のチャットGPTがさらに有用となるのは、まったく考えが及ばない選択肢や、簡単には思いつかない選択肢を追加で見つけ出すために使う場合だ。これにより意思決定の視野が広がり、自分が気づいているよりもはるかに多くの、広範囲にわたる選択肢があることがわかる。

 中国への依存を減らし、サプライチェーンを分散するにはどうすればよいか。ある企業の経営陣は、この種の問題や意思決定に取り組むのは初めてかもしれない。だがチャットGPTは、似た状況下にある企業によってインターネット上に記録された多くの戦略を提示でき、単に生産をベトナムに移転するよりも独創的なアイデアを思いつくかもしれない。なぜなら、チャットGPTがアクセスできる公開データの一部には、業界や企業の種類ごとに選択肢の宝庫があるからだ。