「駆け込み生前贈与」の前に!富裕層でなくても要注意の税務調査DX化写真はイメージです Photo:PIXTA

注目の「相続税と贈与税の一体化」は、政府与党『令和4年度税制改正大綱』においても前年同様、「本格的な検討を進める」との表現にとどまった。2021(令和3)年末に閣議決定され、財務省が公表した『令和4年度税制改正の大綱』にも具体案は見当たらない。しかし、油断は禁物。今後の生前贈与の注意点を挙げてみる。(税理士、岡野雄志税理士事務所所長 岡野雄志)

失敗例から学ぶ
「駆け込み贈与」の注意点

 一昨年末、「暦年課税が廃止に……?」との懸念が広がり、世間をざわつかせた『令和3年度税制改正大綱』の文言は次の通りである。「相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する観点から、現行の相続時精算課税制度と暦年課税制度のあり方を見直す」。

 受贈者一人につき年間110万円までの贈与額なら贈与税が非課税になる「暦年贈与」は、生前贈与で相続税対策をしたい富裕層には定番の方法と言える。そのため、「相続税と贈与税の一体化」実施前に暦年贈与をという駆け込みが増加。実際、当税理士事務所にもこの件に関するご相談が増えている。

 しかし、暦年贈与にも注意点はある。贈与者が亡くなって相続開始となった場合、その死亡日からさかのぼって3年以内の暦年贈与額は相続財産額に含まれ、相続税の課税対象となるからだ。

 以前、『富裕層の節税対策を封じ込める!?「相続税と贈与税の一体化」』の回でも述べたが、贈与者がご高齢、あるいは既往症や持病がある場合、当税理士事務所ではむしろ「都度贈与」をおすすめする。夫婦、親子、兄弟姉妹などの扶養義務者から受け取った生活費や教育費に充てるための財産には、そもそも贈与税がかからないからだ。

 都度贈与は受贈者の口座に振り込んだり、現金で手渡したりせず、なるべく費用を直接払うのもポイントだ。なぜなら、受贈者が本来の目的に使わず、生活や教育に必要と認められないものを購入したり、貯金したりすると、贈与税の対象になるからである。

 特に入学金や授業料、手術代や入院費など、比較的高額になる場合は直接支払う。そして、支払先から領収書をもらい、保管しておく。万が一の税務調査への予防策となる。

 近年の判例から、富裕層は特に注意したいのが『財産評価基本通達 第1章総則6項(総則6項)』だ。国税局・税務署の「伝家の宝刀」とも呼ばれ、めったに振り回すことはないが、「過剰な節税」とみなされると切り込まれ、裁判で追い込まれるケースも多い。

 相続税法では、相続や贈与で得た財産の評価は、その相続・贈与発生時点での時価で行われることになっている。例えば、有価証券の相続なら、相続発生日、発生月、前月、前々月の単価を比較し、最も安い単価で評価する。また、不動産資産の土地評価の計算には、路線価方式や倍率方式が用いられる。

 ところが、都内高級住宅地にあるマンションを相続した相続人がローン残債と路線価評価により相続税を0円で申告したところ、税務調査となり追徴課税を求められた。これを不服とした相続人が裁判所に訴えたのだが、総則6項により敗訴してしまった。

 総則6項には「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の評価は、国税庁長官の指示を受けて評価する」とある。「著しく不適当」とはかなり曖昧な表現だが、上記の例では路線価と時価の差額が大きく、時価が適用された。

 しかも、悪いことに、被相続人がマンション購入の際、融資金融機関と交わした覚書に「節税対策である」と記されていた。生前贈与の場合も、たとえ本心は相続税対策であっても、子や孫の住宅購入費を援助するためなど、合理的理由を用意すべきである。