富裕層親子は注意!配偶者居住権は「争族」防止にはならない?2020年4月1日に施行された「配偶者居住権」。施行から約1年半たった今、制度のほころびも顕在化している(写真はイメージです) Photo:PIXTA

120年ぶりといわれる民法大改正に伴い、2020年4月1日に施行された「配偶者居住権」。伴侶の死後も配偶者が住み慣れた家に住み続けられ、しかも、二次相続の節税対策にもなると歓迎された。しかし、施行から約1年半たった今、制度のほころびも顕在化している。(税理士、岡野雄志税理士事務所所長 岡野雄志)

二次相続にも有効な「配偶者居住権」
ところが、所有権を持つ子の裏切りが発覚!

 2020年4月1日に施行された「配偶者居住権」。まずは、この主なメリットを挙げてみよう。

◎配偶者が現在の住まいに住み続けられる。
◎法定相続分に従って分割する場合、自宅を配偶者の相続財産に含めない分、配偶者に今後の生活費を配分できる。
◎配偶者居住権は取得した配偶者の死亡によって消滅するので、二次相続の際、相続税の節税効果が期待できる。

 例えば、夫が死亡し、相続人は配偶者である妻、そして子としよう。法定相続分に従い、妻が全相続財産の1/2、子が残り1/2を全員で分配することになる。自宅の評価額が全遺産の1/2以上を占め、子たちが残り1/2の相続分を主張して譲らなければ、どうなるか。

「配偶者居住権」施行前は自宅を売り、現金を分配する例が多かった。この場合、妻は住み慣れた自宅を去ることになる。また、妻が自宅=現物を取得し、子たちに代償金として法定相続分を払う「代償分割」の方法もある。妻に豊富な財産があればよいが、今後の生活は困窮するかもしれない。

 その点、「配偶者居住権」を選択すれば、妻は自宅の建物に住む権利「居住権」と敷地を使う「利用権」を得、自宅で暮らせる。代償金などを他の相続人に払う必要もない。子は誰か単独または共有でその建物と敷地の「所有権」が得られ、自宅を含めた法定相続分を配分されることが可能だ。

 このメリットを生かし、Aさんも妻には「配偶者居住権」を遺贈すると遺言書にしたためた。実は、Aさんは現在の妻と再婚している。前妻との間には、一人息子がいる。その息子と現在の妻がもめることがないよう、自分の死後も現在の妻が安心して暮らせるよう配慮した。

 やがては、現在の妻もこの世を去る。すると、二次相続が発生する。妻が自宅の所有権を取得していれば、妻の死後、その所有権は妻の親族に相続されてしまう。「配偶者居住権」なら、妻の死亡とともに権利は消滅する。所有権は息子にあるので、二次相続後も息子が所有できる。

 ただし、遺言書には配偶者に配偶者居住権を「相続させる」ではなく、「遺贈する」と書くこと。民法第1028条第1項に「遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき」「配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき」と規定され、「相続による」との定めはない。

 Aさんは、この点も留意して公正証書遺言を作成し、その後、急逝。後妻と前妻の息子はこれまで面識がなかったが、何度か連絡を取り合い、Aさんの遺言書に従うことで合意した。ところが……である。肝心の「登記」の段階になって、突然、息子は考えを翻した。